若井新一第5句集『風雪』(角川書店)、平成25年から令和2年の8年間の388句を収める。著者「あとがき」に、
(前略)新潟の豪雪地帯に生まれ、会社勤めの傍ら農業をやり、ここで一生を終わるというのは、偶然にして不思議だ。様々なことがあったが、俳句という文芸に巡り合い、生きた証を残せるのはとても幸せである。古希もとうに過ぎ人生の儚さを思うが、農業と俳句に定年はない。今後も元気のうちは鍬の柄を握り、草刈機を背負い、自然界と睦あってゆきたい。
と記している。そして、帯の惹句には、
残雪の嶺より高く鍬の先
農に生き、句作をたましいの糧とする。
足裏を耕土の奥へ踏み込み、豪雪の地での、
生と死を明滅させる。
ともあった。また、集名に因む句は、
風雪の隧道の口消えにけり 新一
であろう。ともあれ、愚生好みになるが、集中よりいくつかの句を挙げておきたい。
うぶすなの土俵を隠す花吹雪
悼 本宮哲郎氏
寒月へ本宮哲郎発ちにけり
霾やいづこへ抜くる土竜みち
凍るまじ凍るまじ水流れゆき
紅梅のひしと寄り添ふ龍太の忌
いつの世の星と別れし螢かな
雪食ふや喉乾きたる屋根の上
マルクスの豊かな髭や書を曝す
志城 柏(目崎徳衛先生の俳号)
雪嶺やいよよ高きに志城柏
かたかごの花にも追はれ心かな
泥のほか見ざるひと日や代を掻く
引き返す波のなかりき青田波
新雪を乳房に当つる雪女
広島忌熱砂の上を土踏まず
いくたびも人影を消す花ふぶき
若井新一(わかい・しんいち) 昭和22年、新潟県魚沼市生まれ。
芽夢野うのき「青柿の青に宿るや老少女」↑
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