米岡隆文最終句集『静止線』(青磁社)、著者「あとがき」に、
とうとう最終句集を出すことになった。
俳句の世界にかかわって二十年。
よく続けられたものだ。
ここには『虚(空)無』以降、六年間の作品を纏めた。配列は逆編年順とした。
こうして句を見直してみると、つくづく私の句には「こころ」がない。否、正確にいうと「あそびごごろ」はあるが、「まごころ」がない。(中略)
本句集の発行日七月一日をもって古稀を迎える。よく生き存えたものだ。
たくさんの俳縁をいただき、良き句友と巡り会えたことはとても幸せであった。
何も思い残すことはない。
ほど良い人生だったと思う。
この句集をもって俳句人生にひと区切りを入れる。
最終句集と名付けた所以である。
本集の巻末には、これまでに上梓した三冊の句集『虚(空)無』(邑書林)、『隆』(邑書林),『観葉』(青磁社)の句集からの抄出句も収載されている。集名に因む句は、
折り返す空ふらここの静止線 隆文
からだろう。ともあれ、以下に、愚生好みに偏するが、いくつかの句を挙げておきたい。
瞬間蠅叩き付自動人間
たなごころするりとぬけて春の水
ひとり雨そしてしぐれがはるさめへ
骨だけになって見ている冬景色
〈わたくし〉は死んでいるなりかたつむり
風船の内部疾風怒濤なり(シュトルム ウント ドラング)
揺れたのは君かそれとも夏草か
どんどこどんどこ春の地面が揺れている
キス拒む妻愛拒む恋人の汗
こんにゃくはこんにやくのまま三尺寝
直面で渡る他なし天の川
にんげんを忘れ路上にサングラス
月はこの世にひとつあの世にふたつ
斎場ににんげん入れる冷蔵庫
「悲」の文字が「恋」に見えたる花眼かな
水平線夢の数だけ波が立つ
米岡隆文(よねおか・たかふみ) 1951年、大阪市城東区生まれ。
芽夢野うのき「神はみな悪運つよきタマサンゴ」↑
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