2021年8月22日日曜日

米岡隆文「原子炉を抱いて墓標の青岬」(『静止線』)・・・

 


 米岡隆文最終句集『静止線』(青磁社)、著者「あとがき」に、


 とうとう最終句集を出すことになった。

 俳句の世界にかかわって二十年。

 よく続けられたものだ。

ここには『虚(空)無』以降、六年間の作品を纏めた。配列は逆編年順とした。

こうして句を見直してみると、つくづく私の句には「こころ」がない。否、正確にいうと「あそびごごろ」はあるが、「まごころ」がない。(中略)

本句集の発行日七月一日をもって古稀を迎える。よく生き存えたものだ。

たくさんの俳縁をいただき、良き句友と巡り会えたことはとても幸せであった。

何も思い残すことはない。

ほど良い人生だったと思う。

この句集をもって俳句人生にひと区切りを入れる。

最終句集と名付けた所以である。


 本集の巻末には、これまでに上梓した三冊の句集『虚(空)無』(邑書林)、『隆』(邑書林),『観葉』(青磁社)の句集からの抄出句も収載されている。集名に因む句は、


  折り返す空ふらここの静止線     隆文


からだろう。ともあれ、以下に、愚生好みに偏するが、いくつかの句を挙げておきたい。


  瞬間蠅叩き付自動人間

  たなごころするりとぬけて春の水

  ひとり雨そしてしぐれがはるさめへ

  骨だけになって見ている冬景色

  〈わたくし〉は死んでいるなりかたつむり

  風船の内部疾風怒濤なり(シュトルム ウント ドラング)

  揺れたのは君かそれとも夏草か

  どんどこどんどこ春の地面が揺れている

  キス拒む妻愛拒む恋人の汗

  こんにゃくはこんにやくのまま三尺寝

  直面で渡る他なし天の川

  にんげんを忘れ路上にサングラス

  月はこの世にひとつあの世にふたつ

  斎場ににんげん入れる冷蔵庫

  「悲」の文字が「恋」に見えたる花眼かな

  水平線夢の数だけ波が立つ

  

 米岡隆文(よねおか・たかふみ) 1951年、大阪市城東区生まれ。


      芽夢野うのき「神はみな悪運つよきタマサンゴ」↑

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