森さかえ第三句集『木星は遠すぎる』(文學の森)、装画と各扉の挿画は著者。構成は春夏秋冬だが、ぞれぞれの章題は「春や春」「どこへ行つても雨」「立ち止まる時間」「夢目のひとひら」と付されている。著者「あとがき」の中に、
(前略)『夏のつづき』を出してから十年が過ぎた。その間に作った俳句を整理する必要を感じていたので、思い切って句集としてまとめることにした。
芭蕉ではないが、夏炉冬扇のように、何の役にも立たない私の句だが、少しでも面白がってくれる人がいればと思う。
と結ばれている。集名に因む句は、
木星は遠くて冬がきてしまふ さかえ
であろう。ともあれ、集中より、愚生好みに偏するが、いくつかの句を挙げておきたい。
春の昼からだを留守にしてゐます
あかさたなはまやらわつと春一番
逃水や擬態のうまい姉である
春の海指を入れればちゆんといふ
おれおれといひつつ椿おちてゐる
襤褸とは花の散りしく時代かな
舌の根の乾かぬやうに水を打ち
穴惑ひずつと死なないきがします
かなかなや半減期まではゐるつもり
地図にない街ありことに黄落す
行列にならぶもうすぐ春ですね
そのうちに死にますなあと日向ぼこ
返り花死に放題の日となりぬ
七草やどこ吹く風の吹いてをり
総立ちの枯木ぼうだちの人民
森さかえ(もり・さかえ) 1949年生まれ。
鈴木純一「着衣のマハ/裸のマハ/死せるマハ」↑
0 件のコメント:
コメントを投稿